手品サークルの合宿に参加している。

最終日は誰もがお祭り気分を満喫。そんな勢いも収束した午前2時。
いいかげんひっそりと静まり返り、コンパルームはパズル中。僕は睡眠不足でパズルに集中できない頭を覚まそうとロビーの辺りで軽く腕を回したりしながら、1Fトイレへ向かい、ドアを開けた。右側が鏡と洗面器、左が男性用便器、正面は個室が2つ。片方のドアが閉まっていたが、大して気にも止めず僕は左へ進もうとした。と、その直前に、視界に一瞬の違和感を感じた。

しまっている個室の下の隙間から、見慣れない黒いかたまりがのぞいている。モップ?たわし?いや、もっとやわらかい毛。大きさは、頭くらい・・

体が硬直した。髪の毛だ。この位置に頭?個室の中で誰かが気を失っている。いや、トイレの個室で気を失うなんてことがあるだろうか・・まさか、ひょっとすると・・。

無意識のうちに僕は犯人の存在を想定し、目を見張り、耳を澄ませた。この部屋にもう一人いるのだろうか。隣の個室に死角がある。
あたりは静寂だった。と、はじめは思った。静寂の中にかすかに物音がするのに気付き、その音にフォーカスをあわせた。

呼吸の音だ。ゆっくりとした周期で、吸って、吐いている。
その音がいびきであることに気付いた僕は、笑い声をかみ締め、深刻な表情を無理に作りながら、ヒロ氏を呼びにロビーへかけていった。